2017.11.23
20年以上不思議に思っていた生徒の言動、それが氷解しました
算数・数学では論理を教えています。が生徒は分からないときでも直感で答えを言います。「わかりません」と言えばいいのに適当な小手を言ってきます。このコラムをお読みのお母さま方で、子供のデタラメな答えに怒ったり、がっくりしたりした経験をお持ちの方も多いと思います。
その答えは一体どこから出てくるのかと私も教えていて不思議でした。
今日はその出鱈目な答えが実は優れた人間の思考システムから生まれているという話です。
この疑問を解いてくれたのは経験からではなく珍しく本の知識です。
本の名は「ファストアンドスロー」著者は認知心理学者ダニエル・カーネマン博士、2002年ノーベル経済学賞を受賞しています。
博士は人間の思考を二つに分けます。一つはすぐに答えを出すことのできる「速い思考」いわゆる直感です。
二つ目は「遅い思考」いわゆる論理思考です。
この二つの思考について著者は認知心理の実験をしていますので紹介します。
このコラムを読まれている方でも参加できますのでやってみてください。
実験、以下の質問の答えを出して見てください。
野球のバットとボールを買います。バットとボールは合わせて110円です。
バットはボールよりも100円高いです。ボールはいくらですか?
読む前に答えを出してからどうぞ見てください。
ボールを10円としませんでしたか?正解は5円です。
著者の実験では被験者(多くはアルバイト稼ぎの大学生!で有名大学生)は驚くべきことに80%が10円と答えています。実は私も連立方程式から答えを出すことが面倒だったので10円と答えました!(私は数学を教えています!)
10円と答えを出したのが速い思考つまり直感です。
そして、驚くのはこの直感のすばらしさです。それを本では紹介しています。
たとえば、チェスの名人は歩いてながら対戦中のチェスの盤面を横からチラッと見て、どちらがあと何手で詰むか瞬間に分かるそうです。
大きなビンの中に1円玉がぎっしり入っているのを何枚ですかと尋ねられると人間はとりあえず答えを出します。当然外れています。が、考えてみたらこのとりあえず答えを出せることがすごいことです。
この直感は人間が生きていくために必要なものです。
今このコラムを読んでいるときにもし大きな地震がきたらどういう行動をとりますか?
テーブルの下に隠れますか?外に飛び出しますか?
いずれにせよ遅い思考の論理の判断を待たずにすぐに行動するはずです。つまり、速い思考である直感は身を守るためにしっかりと働いてくれるわけです。
匠の技と言われる職人の芸当も直感によって技を数十年間研ぎ澄ませて形成されたわけですね。
子供たちはこの直感システムを利用して、デタラメな答えを言ってくるのだと思います。
論理を教えていますのでなぜ論理的に考えて答えないのか、ずっと疑問に思っていましたが、人間の生存システムから答えを導いて答えているわけです。
教わっている生徒たちはその方が楽なので、そうしていると思います。論理的な遅い思考をどう鍛えていくか。それが数学指導者の使命ですが皮肉なことに、じゃまとなる生徒のはやい思考「直感システム」を指導者である私が理解できたことから私の指導力は格段の進歩を遂げたと実感しています。
小学生ほどこの直感システムを使いますので小学生のお子さんを自分で教えられているお母さんにはこのことを理解していただきたいです。